公理(Axiom)がどの様に神経科学に役立つか?
ミクロ経済学では、意志決定理論のモデル形成に公理を用いたアプローチが中心的な役割を果たしてきた。公理は、モデルが実験データによって証明されるのに必要・十分な条件を与える。
第一の例としては、効用の最大化(Samuelson, 1938)問題がある。この問題を証明するのに必要な唯一の公理(仮定)は、顕示選好の弱公理である。
公理によるモデル改善は、最もシンプルで原理的なモデルから始まり、一つずつ改善していく。従って、モデルは樹状に枝分かれしたもの(nested)になる。
次の大きなモデル改善は、フォンノイマン・モルゲンシュルテン(1944)によって提唱された”宝くじ”を対象とした、期待効用理論が挙げられる。ここでは独立性(independent axiom)の公理が追加された。
この独立性の公理の破れを説明したのがカーネマン・トヴェルスキー(1973)で、Probability weighting(確率加重)と呼ばれる、主観的な確率が絶対的な確率からずれることを説明したモデルである。
その後、Ambiguity aversion、disappointment aversionなど、様々なかたちでもとのモデルが更新されている。実験により公理の破れを見つけ効用理論を改善してきた歴史が、公理の果たす役割の重要性を示している。
この章で著者らは、”公理”を脳活動に適用することで、報酬予測誤差信号を規定するのに必要最低限のルールを導き出そうとしてる。その公理とは、
・・・・本を参照してください。Fig.3の見た目の通りです。
Axiomatic approach を用いる利点は、この条件に当てはまる任意の関数なら何でも良く、いちいち細かなモデルの違いを検討しなくても良いことだ。そして、公理に反する例を見つけることで、モデルを絞りこむことが可能である。公理を用いた研究は、行動経済学の大きな特徴の一つである。
~ヒトの心の理解を目指して~
神経経済学 (Neuroeconomics)は、神経科学とミクロ経済学を融合した最先端の学際的な研究です。
・喉が乾いた時に飲む水は美味しいのなぜ?
・なんでペプシよりコーラが好きなの?
・ギャンブルってどきどきしますよね?
学生さんと一緒に、価値観が脳から生まれる仕組みを調べています。ヒトの人間性の理解・社会の制度設計の改善などに繋がります。ポスドクの方募集中です。まずは問い合わせください(2023/2/12)
説明
自己紹介
- 山田洋
- 動物やヒトを対象に神経経済学の研究を行っています。神経経済学には神経科学,経済学,心理学の知識を用います。興味のある方は、h-yamada_at_md.tsukuba.ac.jp へご連絡下さい。筑波大学です。博士前期・後期課程の研究指導担当教員となっています。twitter: @Hiroshi12337131
卒業生
卒業生:田尻涼(2014, 医療科学類)、今泉優理(2018, 医療科学類)久保木亮介(博士論文指導(神経科学)2022、現武田薬品工業)
2010/04/03
2010/02/14
Definition of Risk: Expected Utility or mean variance
リスクは2通りの定義が可能
1.効用関数:限界効用の低減や増加として表現される
2.平均分散モデル:U = V + b*Var V:期待値、Var:分散、b>0 リスク選好、b<0リスク嫌悪
*平均分散モデルは、期待効用理論の近似である。結果が既知の確率分布から現れるので、平均と分散で効用関数を近似的に表現することが可能である。
1.効用関数:限界効用の低減や増加として表現される
2.平均分散モデル:U = V + b*Var V:期待値、Var:分散、b>0 リスク選好、b<0リスク嫌悪
*平均分散モデルは、期待効用理論の近似である。結果が既知の確率分布から現れるので、平均と分散で効用関数を近似的に表現することが可能である。
2010/02/06
社会のシステムは誰が決めるの?変えるの?
神経科学の若手研究者コミュニティーから「これからの科学・技術研究についての提言」(こちら)という内容で、パブリックコメントが出ました。(要約はここ)
このページの読者は少ないと思いますが、こちらで取り上げておきます。
個人的な意見です。
研究社会に限らず日本の社会システムは非効率的な部分が多いです。別に効率が上がらなくてももっと大きな富を社会が生み出せるようになれば、労働時間も減るし、休暇も増えるし言うことないんでしょうが。話が横にそれましたが、日本の社会の特徴として階層性・勤勉さは重要な要素ですが、良い面と悪い面の両者を兼ね備えています。
年功序列の社会システムは、尊敬の念を重んじる一方で、古い非効率なシステムが多く残ることに繋がっていると思います(年長者の意見が社会のルール、国の方向性を決定するので)。景気が良い時はそれでうまく廻っていたと思いますが、悪い今は効率性を上げないと食いっぱぐれる人が沢山でますよね。ちなみに、どの国でも非効率だよ~って意見は無しということで。
勤勉さは日本人の良いところですが、リスク管理などでは非効率な部分を生んでいると思います。失敗ゼロを追求することを良しとし多大な努力を注ぐ。また、失敗が起きることを許容できず、過度に悲観的・懲罰的になりすぎる。景気の悪い最近は、この点がより目立っていると思います。もちろん、死に繋がるような失敗は議論の範囲外ですが。
この提言は、そんな日本人の特徴をうまく捉え、研究社会の抱えるシステムとしての問題点を直しましょうという、シンプルで生産的な提案だと思います。ただし、提言の内容は正論なので、正論で世の中が動かないことを知っている人にとっては、机上の空論だというとらえ方もあるでしょう。そりゃ、若手だって簡単に世の中の仕組みが変わらないことぐらいわかってると思いますが、何もしなければ始まりません。やり方については賛否両論あると思いますが、これを契機に何かが変わっていくと良いと思います。
このページの読者は少ないと思いますが、こちらで取り上げておきます。
個人的な意見です。
研究社会に限らず日本の社会システムは非効率的な部分が多いです。別に効率が上がらなくてももっと大きな富を社会が生み出せるようになれば、労働時間も減るし、休暇も増えるし言うことないんでしょうが。話が横にそれましたが、日本の社会の特徴として階層性・勤勉さは重要な要素ですが、良い面と悪い面の両者を兼ね備えています。
年功序列の社会システムは、尊敬の念を重んじる一方で、古い非効率なシステムが多く残ることに繋がっていると思います(年長者の意見が社会のルール、国の方向性を決定するので)。景気が良い時はそれでうまく廻っていたと思いますが、悪い今は効率性を上げないと食いっぱぐれる人が沢山でますよね。ちなみに、どの国でも非効率だよ~って意見は無しということで。
勤勉さは日本人の良いところですが、リスク管理などでは非効率な部分を生んでいると思います。失敗ゼロを追求することを良しとし多大な努力を注ぐ。また、失敗が起きることを許容できず、過度に悲観的・懲罰的になりすぎる。景気の悪い最近は、この点がより目立っていると思います。もちろん、死に繋がるような失敗は議論の範囲外ですが。
この提言は、そんな日本人の特徴をうまく捉え、研究社会の抱えるシステムとしての問題点を直しましょうという、シンプルで生産的な提案だと思います。ただし、提言の内容は正論なので、正論で世の中が動かないことを知っている人にとっては、机上の空論だというとらえ方もあるでしょう。そりゃ、若手だって簡単に世の中の仕組みが変わらないことぐらいわかってると思いますが、何もしなければ始まりません。やり方については賛否両論あると思いますが、これを契機に何かが変わっていくと良いと思います。
2010/01/31
数学の脳科学における有効性
今日、ボスと議論した話題
人の意志決定について脳の情報処理を理解する上で、計算理論に基づく研究は有効だけど、研究は必ず規範となる理論(Normative theory)からスタートすべき。理由は、
1.観察した現象を説明する計算理論は沢山あり、2.そのサブクラスも含めれば無数に可能。3、そのモデルが正しいと証明することは現実的に可能でない。
従って、規範となっている計算理論から出発して、そのサブモデルを議論していくことが重要だという思想。逆にいえば、何か適当なモデルから出発して、その周辺でサブモデルを議論しても、局所最適解を探していることになる。最も悪いのは、自分がなんとなく好きなモデルに後付けで色々付加して(ad hoc)、こんなによく現象を説明できるようになりましたよっていう研究だ。
ここで、生物学的要因が果たす制約条件は、あくまでも補足的なものと考えるのが良いという考え。制約を増やすことでモデルは絞り込まれるが、モデルの全ての仮定を生物学的要因で証明することはかなり難しい。
強化学習のTDモデルの成功を例にあげれば、
TDはモンテカルロ法という優れた規範理論に極めて近い計算過程であり、生理学の研究によりドーパミン細胞の発火頻度がその性質を備えていることが多数の研究により示されている。
経済学を例に挙げれば、
モデルは必ず効用理論からスタートしている。期待効用理論もプロスペクト理論も効用理論がもとになっている。
脳は計算回路なので、工学の得意な計算手順(algorithm)を備え持つモデルが重要。ミクロ経済学では計算を回路、手順として考えることはない。逆に不必要な要素を増やしたアルゴリズムは、その現象に対する説明力は上がっても規範から大きく外れてジャンクになってしまう。
脳研究がもっと進んで脳の計算基盤が明らかになればモデルはずっと絞り込まれるが、現段階ではその手法は意志決定の研究には望みが低い。ならば、やはり、シンプルで良くその計算の重要性が理解されている計算原理から始めるべきなのだろうか。
人の意志決定について脳の情報処理を理解する上で、計算理論に基づく研究は有効だけど、研究は必ず規範となる理論(Normative theory)からスタートすべき。理由は、
1.観察した現象を説明する計算理論は沢山あり、2.そのサブクラスも含めれば無数に可能。3、そのモデルが正しいと証明することは現実的に可能でない。
従って、規範となっている計算理論から出発して、そのサブモデルを議論していくことが重要だという思想。逆にいえば、何か適当なモデルから出発して、その周辺でサブモデルを議論しても、局所最適解を探していることになる。最も悪いのは、自分がなんとなく好きなモデルに後付けで色々付加して(ad hoc)、こんなによく現象を説明できるようになりましたよっていう研究だ。
ここで、生物学的要因が果たす制約条件は、あくまでも補足的なものと考えるのが良いという考え。制約を増やすことでモデルは絞り込まれるが、モデルの全ての仮定を生物学的要因で証明することはかなり難しい。
強化学習のTDモデルの成功を例にあげれば、
TDはモンテカルロ法という優れた規範理論に極めて近い計算過程であり、生理学の研究によりドーパミン細胞の発火頻度がその性質を備えていることが多数の研究により示されている。
経済学を例に挙げれば、
モデルは必ず効用理論からスタートしている。期待効用理論もプロスペクト理論も効用理論がもとになっている。
脳は計算回路なので、工学の得意な計算手順(algorithm)を備え持つモデルが重要。ミクロ経済学では計算を回路、手順として考えることはない。逆に不必要な要素を増やしたアルゴリズムは、その現象に対する説明力は上がっても規範から大きく外れてジャンクになってしまう。
脳研究がもっと進んで脳の計算基盤が明らかになればモデルはずっと絞り込まれるが、現段階ではその手法は意志決定の研究には望みが低い。ならば、やはり、シンプルで良くその計算の重要性が理解されている計算原理から始めるべきなのだろうか。
【Book】Neuroeconomics第二章:実験経済学と神経経済学
この章の言いたいところは明確に理解できていない。理由は、実験経済学のことを私がほとんど知らないからだろう。
基本的な著者の立場は、脳活動の知見が実験経済学の理解にどう役立つのかを説明するもの。
それには、以下の3つの基準が重要とのこと
1.Internal Order:個人の選好と脳が選好を生み出す数理モデル
2.Social Order:個人間(他者との関わり)のもとでの意志決定
3.Market Order:集団
それぞれのレベルで意志決定に関わる脳内の計算過程がどう役立つのかを例を挙げて提言している。マーケットレベルになるとほんとにどう役立つんだろうな?
基本的な著者の立場は、脳活動の知見が実験経済学の理解にどう役立つのかを説明するもの。
それには、以下の3つの基準が重要とのこと
1.Internal Order:個人の選好と脳が選好を生み出す数理モデル
2.Social Order:個人間(他者との関わり)のもとでの意志決定
3.Market Order:集団
それぞれのレベルで意志決定に関わる脳内の計算過程がどう役立つのかを例を挙げて提言している。マーケットレベルになるとほんとにどう役立つんだろうな?
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